漢方医学の大きな4つの特長
漢方は未病を治す医学
「未病」とは、文字通り、「未だ病気ではない」という状態です。病気になっていない段階で、身体のバランスの歪みや崩れを発見し、補正して健康を保つという、予防的な治療が可能であることが、漢方の大きな特徴です。
また、未病には「現在病気の状態で、その病気が今後どのように進展して行くかを推察して、できるだけ進行しないように治療する」という意味もあります。病気と共存していくという意味合いの治療です。
漢方は婦人、小児を大切にする医学
唐の時代に道教の仙人をしていた孫思邈が書いた医学書『千金要方』は、特殊な編集をしています。最初に女性の治療の記載があり、次に小児の治療を記述し、一般成人(男子や老人)の治療は最後に述べられています。わざわざこのような順にした訳を、その序文で「崇本の義」という言葉で表しています。
「人々が健康になるためには、将来の社会を担う子供がまず健康であることが大切である。子供を健康に育てるためには、子供を産み育てる母親が健康であることが最も大切である」
これは現代においても通用する重要な考えであると思います。女性が健康であれば、家庭もひいては社会も明るく健康になります。
このような考えのもと、女性の健康に奉仕する治療医学であるということも、漢方の重要な特長のひとつです。
漢方薬は豹変する
桂枝湯は、桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗という五種類の生薬で構成されています。
身体が虚弱な人の感冒の初期、風邪薬として使われます。
ところが、桂枝湯に入っている芍薬の量を二倍にしますと(残りはすべて同じ量)桂枝加芍薬湯という腹満や腹痛を治す薬になります。つまり、風邪薬がお腹の薬に変わるのです。
また、その桂枝加芍薬湯に飴(水飴)を加えると小建中湯という薬になり、虚弱児童の治療に用います。
言い換えると、風邪薬からお腹の薬へ虚弱体質改善の薬へといったようにどんどん変化していきます。
また、桂枝湯に附子を加えますと、異常発汗過多で脱水に陥るなどの症状を治します。本来、桂枝湯には発汗作用がありますが、今度は汗を止めてくれる薬になります。
続いて桂枝湯に茯苓、白朮、附子を加えますと神経痛や関節痛など痛みを治す薬へ変わります。このように少し組み合わせを変えることによって、治療の方向がガラッと変わるのです。これは天然物である生薬の中に非常に多種類の成分が含まれていて、その成分の相加や相乗、相克の作用による薬効が出てくるためです。
このように組み合わせによって治療の方向がガラッと変わっていく特長は、漢方の魅力でもありますが、安易に用いると大事に至ることもありますので、専門医による注意が必要です。
漢方は「柔能く剛を制す」医学
甘麦大棗湯という薬を例に考えます。これは甘草、小麦、大棗の三種で構成されています。棗は小さい頃、お菓子代わりに食べた思い出があります。甘草はスパイスです。小麦はもちろん大切な食料です。これらは、食品として食べても、色々な薬効が発揮されることはありません。しかし、それをごく少量煎じて使用すると、驚くような作用が出てくるのです。
ヒステリー発作において、非常に強力な発作を起こした時でもこれを上手く使用すると静まるのです。
漢方は、マイルドな作用を充分効果が発揮できるように上手に使うことが“漢方の術”であり、大きな効果が得られます。
以上が、私たちの考える漢方の四つの主な特長です。
漢方は子供から高齢者まで、年齢を問いません。現在病気で悩まれている方、病気ではないけれど健康とも言い切れないという方、いつまでも健康で楽しく暮らしたいと望む方、皆様の暮らしの中に少しでも漢方を活かして、健康な生活への手助けとなれることを切に願って、日々診療しております。
理事長 中田敬吾